「……那月さんが、あたしの事嫌いになってないなら、一緒にいて下さい」
つい俯いてしまいそうな心を奮い立たせて、真っ直ぐに那月さんを見つめた。
「…日々愛しさが増しこそすれ、嫌いになんてなれませんよ」
さっきは、あんなに強引なキスをした癖に、今度は触れるだけの優しいキスをくれる。
柔らかく微笑んでくれるけれど、あたしの肩を抱く手は微かに震えていた。
「私は……人との縁がとても薄い人間です。
親でさえ、極力顔を合わせたがらないような私を、師匠は引き取ってくれました。もし、あの時ここに連れてこられなかったら、今頃生きては居なかったと思います」
「えっ……」
「毎日どうやって死のうかと考えてました」
抱き締められているから、那月さんの表情は見えない。
ただ聞く事しか出来なくて、抱き締め返す腕に力を込めた。
「……師匠が亡くなった時も、私に会いたく無いからと、お葬式にすら顔を出しませんでした。
……私を、連れて帰るのが嫌だったんですよ」
「そんな……」
「まぁ、私が継ぐ事になりましたし、両親の元に戻る気は無かったんですけどね」
それは、沢山の事を耐えてきた人の、寂しげな微笑みだった。
