「…俺、ダメっすね。
若女将がいるかも知れないって思っても、月森の奥には怖くて入れなかったんすよ…」
「賢明だったと思いますよ。
月森を我が物顔で走り回るのは、私の他には十夢と桜介くらいですよね」
如月窯のある月森は、昔から神が住まう場所と言われ、無闇に足を踏み入れてはいけない場所だったそうだ。
森と呼んではいるけれど、規模としては一山丸々ってところでしょう。
私の住む古民家は、元は山を鎮める巫女の住む場所だったそうです。
十夢の祖父、私の大叔父がまだ幼い十夢の母親を連れて、この村に来た時は、既に人の住まぬ空き家になっていたと聞きました。
その巫女の血筋が途絶えてからも、一番月森に近い場所にある、月守旅館が管理していた為比較的綺麗だったとか。
それでも、普段は月守旅館の人ですら、比較的村に近い月の原までしか入らないのです。
そんな曰く付きの森は、私の様な外れものが暮らすには心地よい場所でした。
私より先に居た十夢と、私はこの森で青春時代を過ごしました。
まぁ、町に出ておいたもしましたが…
桜介も、他の村人よりは森に近い所に住んでいたからか、けっこう抵抗なく足を踏み入れていましたが、花乃は女の子だからかたまに十夢の祖父、師匠の所に来るくらいだったそうです。
まぁ……入って出てこれず行方不明の人とか、沈んだら決して上がらないと言う滝壺とか、無闇に足を踏み入れるとその年は村全体が凶作になるとか……
色々言われています。
確かなのは、滝壺くらいだと思いますけどね…
「これで……吹っ切れました」
「はい?」
光は、物思いに浸っていた私に突然そう告げると、ザバリとお湯を揺らして立ち上がった。
