花色の月


仕事の依頼?


こんな気分ではまともに受け答えも出来ないだろうと、鳴るがままに放置していた。

しばらく鳴り続けた電話が静かになると、また雨の音が聞こえる。

だが、直ぐにまた鳴り始めた黒電話に、雨垂れは中断された。



おかしい。

仕事の依頼にしては、しつこ過ぎる気がする。



のろのろと黒電話に近付くと、気が進まないまま受話器を上げた。

電話の隣に置いてある時計は、帰ってきてから1時間程進んでいる。



「……はい、如月窯…」


『こんの馬鹿野郎!?何やってんだよ!』


「桜介……?」


『花乃と連絡が取れないんだよ!旅館には帰ってない!』



えっ?それはおかしい。

この雨の中、1時間もどこへ……?



『聞いてんのかよ!?花乃に何をした!』


『桜介落ち着け。なっちゃん、何があったか分かんねぇけどな、月守旅館からは光と武さんが探しに出てるらしい。なっちゃんも出れるかぁ?』


わめき散らす桜介に代わって、落ち着いた十夢が諭すような声色で状況を教えてくれる。


「電話は……」


『繋がんねぇんだと。そっち豪雨なんだろぉ?花乃ちゃんの携帯は防水じゃねぇらしい。水没してんじゃねぇかぁ?』



「探して来ます!」



それだけ言うと、雨の中に飛び出した。

酷い雨でも、夜目が利く私なら、武さんや光よりはマシな筈ですよね。



「花乃ーっ!!」



こんな雨の中、1時間も外で何を……

意図的に何処かに行ったのでないなら……

頭の中に嫌な予想が浮かんだ。



私を追ってきて、迷ったんだとしたら?



地元の人でも、茸狩りに来て迷ったりするような山だ。

ましてや、今日は夜の上にこの豪雨。





…花乃、どうか無事でいて下さい………