桜介を選んだ花乃から、逃げるように家路を急ぐなか、降りだした雨に顔を歪めた。
月守旅館の前までは送らなかったけれど、あそこから帰る事は出来るでしょう。
……あそこで、通話を切らせて自分の方を見させる事が出来なかったのは、都会の雑踏にエネルギーをとられ過ぎてたせいなのか……
いえ、それは言い訳ですね。
ただ、桜介に勝つ事は出来ないんだと、あの瞬間に痛感してしまっただけの事。
花乃……余り濡れてないと良いんですが………
そんなに強くない花乃の体を心配しながらも、足は逃げる事を止めない。
どんな私でも好きだと言ってくれたのに、それを心の底では信じれていなかったんでしょうか…
手探りで開けたドアから、ずぶ濡れのまま土間に入ると、体を拭く事すら億劫で、そのまま上がり框に腰を下ろした。
足元の土間を、体から流れ落ちるしずくが黒く染めている。
どれくらい、そうしていただろう。
屋根瓦に激しく打ち付ける雨の音を破るように、普段静かな黒電話が鳴った。
