花色の月


「癖、ですね。
こう言う人なんだと思って貰えませんか?それでも、花乃が距離を感じてしまうと言うのなら、無くすよう努力しますから」



「無くさなくていいよ……
でも……一つだけ我が儘聞いてくれる?」



「花乃の可愛い我が儘なら、いくつでも聞きますよ。克也さんにもそう言ったでしょう?」



まだ、あたしの手は那月さんの耳を塞いだままだけど、そのまま口を寄せて話していた。

でも、自分から言ったのに……なかなか言葉が出てこない。

それを急かすでもなく、ただ待ってくれている那月さんに、勇気を出して言葉を紡いだ。



「…女の子を……あたし以外呼び捨てにしないで下さぃ……」



自分で言ってて重たいなって思ってしまう。

それでも、嫌だったんだ。

那月さんが香澄さんの事を、躊躇いもなく呼び捨てにした声が、今も耳にこびりついている。



「…香澄…さんの事ですか?」



言い慣れなさそうに、香澄さんの名前が『さん』付けで、那月さんの口からこぼれ落ちた。



「…ごめんなさい……」



やっぱり、こんな事言うべきじゃ無かった。

那月さんの耳から、力なくあたしの手が離れると、一瞬痛みが走ったように表情が歪んだ。



「だ、大丈夫!?」


「あぁ、すみません。大丈夫です。
そんな事は我が儘とは言いませんよ?花乃の事だけ、名前で呼びましょう」



「重いとか……思わない?」



「思いませんよ。寧ろ嬉しいくらいです。
あの女には敬称を付けるのが勿体ないような気がしてしまって、名前で呼んでただけなんですから。

私が、愛を込めて呼ぶのは花乃だけです」