花色の月


コンコンッ


「入るぞぉ?」



「…ゃぁ……」



抗議の声が聞こえたような気がするが、そんなのは気にしないでドアを開けた。

ベッドの上でぽろぽろ涙をこぼすのは、桜介そっくりの大きな瞳。



…なんだか調子狂うんだよなぁ……


本当はいじめてやろうとか、大人げない事を思っていたのに、こんなに傷付いて震えているのを見ると逆に守ってやりたくなる。

……これに、桜介重ねるのは問題だな…




「一人で泣くな」



「…っ!なんで……なんでよぉ……」



そっと肩を抱き寄せると、ビクリと震えたけれど大した抵抗はしないで大人しくなった。


ちっこいな……
桜介そっくりのふわふわの髪は肩より少し長くて、今の体制だとふんわりと顔を隠している。



「…嫌い」



「知ってる。俺も嫌いだったよ」



「……なんで…桜ちゃんと同じこと言うのよ……」



声は桜介より高くて綺麗なソプラノだ。
さぞいい声で鳴くんだろうなぁ?



「…なんの事だぁ?」



「…知らない」



必死に嗚咽を飲み込もうとしている肩は、もう少し肉をつけた方がいんじゃないかってくらい儚げだ。

こりゃ、ばあさんも心配するわなぁ…
ましてや雪乃さんの娘だ。不安になって大事にしまい込みたくなる気持ちも分からなくはない。




「なんで……」



「もうちっと食え。
こんなんじゃあ、みんな心配するぞ?」



「……食べたくない」



「そんな事言ってるから貧相なんだよ」