花色の月


大福を、やっぱり泣きながら食べるお父さんに、久美子さんが渇を入れている。

うん、これはこれで素敵な夫婦なのかも知れない。


お父さんと離れていた時間が長いからか、取られたって感覚はない。

ただ、あたしの事を忘れずに居てくれた事が嬉しいだけ。

でも…嫉妬しないっていうのも問題かな?



「花ー乃ちゃん!大福食べるおっさん見て黄昏てんの?」


「いえ……よく泣くなと…」


「そーね。泣き上戸だけど、いい人だよ?花乃ちゃんの写真を枕元に飾るくらい親馬鹿だしねー」


「あの…克彦さんは複雑じゃ無かったんですか?」


たぶん中学生くらいの事でしょう?
多感な思春期の男の子だもん、反抗とかしたのかな?

あたしを見下ろすと、思い出したようにフフッと笑った。



「まぁ、それなりに複雑よ?
でもさ、あからさまに敵意剥き出しの俺を見て、あの人嬉しそうに笑ったんだ。あっ、それから名前呼び禁止ね?お兄ちゃんでよろしくー」


「…はい。
えっと、なんで笑ったんですか?」


「うーん、固いなぁ……。まぁ、それはおいおいにって事で。
あの人ね、おんなじ位の息子みたいのがいるんだって言って。俺のこと親父って思わなくても良いから、存在だけは許してくれって」


「桜ちゃん……」


の事だよね?
そんな事を聞いたら、桜ちゃんは嬉しいかもしれない。

だって、お父さんの事をとっても慕ってたもの。

あっ、ここは過去形にしちゃダメかな?



「それにね、うちの母親がナンパして連れて来てたんだよねー。怒りを覚えたのはどっちかって言うと母親にだねん」


だから、会社を継ぐ道じゃなくて、自分のやりたいことを押し通したんだと、指をチョキチョキしながら笑う。



「お父さんの事…嫌いじゃないですか?」


「好きだよ?今では親父って呼んでるしね」



強い人なんだろう。

穏やかに笑ってみせた顔は、作りは違うのに驚く程久美子さんに似ていた。