花色の月


しばらくそうやって居たけれど、意を決したようにまた目の前のソファーに戻ってきて言った。



「花乃…大切にしてもらってるかい?」


「うん、甘やかされてると思う」


「如月くん……思うことはいっぱいあるけどね……
この子は私達のせいで、甘えるのが下手なんだと思うんだ。いっぱいいっぱい甘えさせてあげてくれ」



複雑そうな顔をしたまま、深々と那月さんに頭を下げるお父さんに、珍しく少し慌てた那月さんが返事をする。



「あっ、頭を上げて下さいますか?
花乃は、最近少し甘えてくれるようになりましたよ。これからもっと甘やかす予定ですが」



少し?

那月さんには、いっぱい甘えてると思うんだけど…



「はぁ…久しぶりに愛娘に会えたと思ったら、まさかの男連れとは…」



お父さんは、またハンカチで目元を拭いている。

お父さんって泣き上戸だったんだね。

記憶の中の背中ばかり見ていたお父さんが段々と薄れて、新しい泣き上戸で喜怒哀楽の激しいらしいお父さんが心に根を下ろした。




「お父さん……ありがとう」



ずっと思っててくれて、ありがとう。

なんの抵抗もなく愛娘って言ってくれて、ありがとう。

音大の時も会わないって約束を守りながら援助してくれて、ありがとう。



その他いっぱいの『ありがとう』を込めて、一言だけ言ったんだけど伝わったかな?


でも、また嬉しそうに瞳を濡らすお父さんを見ていると、あたしまでまた込み上げて来ちゃう。




「まったく、泣き上戸な親子ですね」