花色の月


「…なにか…あったのかな?」



「さぁな、大学に居た時の事は知らねぇんだろ?」



「彼氏…居たのかな?」



クシャリと撫でたふわふわの髪は、泣きだしそうな顔をして寝ると言った女の子とそっくりで、困ったように揺らす瞳もよく似ていた。




「聞かれたくない事なんて、生きてりゃ1つや2つ有るだろうよ。
そっとしといてやれ」



あの子が知られたくないと思っている相手は、間違いなくお前なんだから。




「そうだよね……
なんだか、僕の知らない花乃が居るって…不思議な感じだけど」



「ふぅ…お前はそんなに妬かせたいのか?
そんな事ばかり言ってると、今すぐ食うぞ?」



「なに馬鹿な事言ってんの」



軽くあしらわれたけれど、俺としてはけっこう本気だったりした。

こいつは、全く分かってない。


俺がどれだけお前の言葉の数々に妬いてるかなんて……情けなくて言葉には出来ねぇな。




「じゃあ、僕仕事に戻るから」



「あぁ、頑張れよぉ」



ひらひらと手を振って、廊下を歩き去る細い身体を後ろから抱きすくめて、遠くへさらってしまいたい。