花色の月


「やぁ、よく来たね」


那月さんの後ろにいるあたしは、たぶんお父さんから殆ど見えていない。


「お久しぶりです。突然伺ってしまって申し訳ありません」


「いやいや、構わないよ。君がここに居るなんて言ったら、桜介の奴ビックリするだろうな!
そちらのお嬢さんは?」



那月さんにやんわり肩を押されて、前に出るとそっと顔を上げた。



「…雪乃っ!?

い、いや………花乃か?本当に?」


「…お、お久しぶりです」



あ~ぁ……どもっちゃった…

そんな些細な事、お父さんは気が付いても居ないようだけど。



「実は、今日は私が付き添いなんです」


「いや……まさか…こんな……あっ、手紙……」


……ここまで動揺されると、反対にこっちは落ち着いてきたかも。

一歩前に出て、大福の包みを差し出した。



「あの…これ福田屋の豆大福。お父さん好きだったでしょ?お父さん所に行くって言ったら、おばちゃん沢山おまけしてくれたんだよ」


音大のお礼とか、色々言うことはある筈なのに、あたしの口から出たのは豆大福の事だった。

いきなり抱き締めてきたお父さんは、あたしの頭の上で嗚咽しているのが分かる。

危機一髪で、那月さんに救われた豆大福は、そのままテーブルの上に避難させられた。



「よく……来てくれたね……」



あぁ、どうしよう…

そんなつもりは無かったのに、お父さんがあんまり泣くから鼻の奥がツンとしてきちゃった……



「…お父さん……」


「花乃…」