「そんな可愛い顔してはにかまれたら、場所をわきまえない事をしたくなるじゃないですか」
「…那月さんって目悪い?」
「失礼な。両目共に2.0はありますよ?」
……じゃあ、感覚自体がおかしくなってるとか?
あたしがワンピースだからと、いつもの着流しではなく洋服姿の那月さんを見上げながら、失礼な事の続きを考える。
「まぁ、過去の事が原因で自信が持てないことは知ってますけどね。少しは自覚してくれないと心配で心配で夜も眠れませんよ」
「…ぐっすり寝てたじゃん」
「あれは花乃が腕の中に居たからです。
流石に私の腕の中で悪い虫がつく事はないでしょう?」
那月さんこそ、もっとガードして欲しい。
だって、向かいの女の子も、その向こうのOLっぽいお姉さんも、隅っこに座ってる杖をついたおばあちゃんまで、那月さんに釘付けなんだから。
自覚無いのは、那月さんの方だよね。
「さて、次の駅ですね」
「ねぇ…昨日はあぁ言ったけど…アポ無くて会えるかな?」
「それは大丈夫だと思いますよ。
父に会いに来たって、伝えてもらえば良いだけです」
それはそれで緊張するから、やっぱり那月さんには隣にいてもらおう。
