花色の月


それに……

桜ちゃんは知らないし、言えないけれど『男を知らない』訳じゃない。




誰も頼る人がいなくて、寂しくて……

好きでもない人に抱かれた事がある。




でも、その人にあたしの心が少し傾き初めた時の事…


『ごめん、やっぱり彼女には出来ない』




別れようじゃなくて、彼女には出来ない。

とっくに付き合っていると思っていたのはあたしだけだったみたいで、そう言えば友達には内緒にしてと言われていた。


経験のないあたしは『恥ずかしいから、もう少ししたら』って言葉を真に受けて黙っていたんだ。

…まぁ、恋ばなをする友達も居なかったんだけど…



ベッドの上ではあんなに甘い言葉を囁いた唇は、ごめんとだけ繰り返し

優しく見つめてくれてた筈の瞳は、あたしを映そうともしなかった。






馬鹿みたい……


あたしは、やっぱり恋なんて出来ないんだ。



彼は同じ大学の人だった。
次の日から知らない人として接する様子に、涙はこぼれなくて………ただただ心が冷えたのを覚えている。





「おい…どうした?」



「花乃…?」



よっぽど難しい顔をしていたみたいだ。

心配そうな二人の顔に、慌てて作った微笑みは、我ながら酷い物だったと思う。



「…何でもないよ」



「花乃…」



「ちょっと体調悪いから……寝るね?」



だから一人にして、布団を握りしめた片手には、白い包帯が巻いてある。

こんな物で隠したって、醜い傷は消えないのに…




あたしは汚い

でも…それを桜ちゃんにだけは知られたく無かった…