花色の月


宵闇が辺りを包む頃。



「花乃、ごはん食べなかったって?」



「…武さんの馬鹿」



一応ノックをして入ってきた桜ちゃんは、ベッドに寝そべるあたしの横に座って、ふわふわと柔らかく頭を撫でた。



「嬢ちゃんには内緒な?って教えてくれたよ」



「…それ言っちゃダメなんじゃない?」



布団にくるまったまま、桜ちゃんに撫でられる心地よさにまたうとうとしてしまう。



「武さんは心配なんだよ。花乃の事娘みたいに思ってくれてるからさ」



今日は夕ごはんはいらないと告げた時の、困ったようなごつい顔を思い浮かべた。



「何か嫌な事でもあった?」



「………なにも」



「…そっか」



そんなに困った声を出さないでよ。

じゃあ、なんて言えば良いの?
火傷も切り傷も痛いし、桜ちゃんもモモも取られちゃってふて寝してましたって?


心の中で言ったって、誰にも伝わりはしたいのに、いつも心の中でゴチャゴチャ言うのはあたしの悪い癖。




「食わないと育たねぇぞ?」



急に聞こえたのは桜ちゃんの声じゃなくて、もっと低くて響く声。



「なっ、なんで……」



ここに居るのよ!

がばりと起き上がって眼鏡を探そうとしたあたしの手を掴まえると、空いてる方の手でつんと胸をつついた。



「ぇ……?き、きゃあっ!」



何すんのよ!この痴漢野郎!