花色の月


目を閉じた時に、一粒涙がこぼれ落ちる。

このまま、何処かへ消えてしまえたら良いのにと、無責任にも思ってしまった。


……桜ちゃん、ごめんなさい……
あたし…やっぱり駄目みたい……

…知花さまをから
桜ちゃんを引き離したくは無いのに…



でも、今踏みとどまる事は出来ないみたい。



あたし……



着物が肩から滑り落ちて、懐に入れていた練り香水が袋からコロリと転げ落ちた。

それを邪魔そうに払った小野先輩の体の下から、反射的にすり抜けて縁側から外に落ちそうな所を掴んだ。



「おい、そんな物……」


しっかりと小さな入れ物を握って、小野先輩の方を振り返ると、何故かあたしの背後を見て固まっていた。





「お前、生きて帰れると思うなよ」


いつもより低く、甘さの代わりに怒気を含んでいたけれど、間違いなく那月さんの声だった。


「う、うるせぇ!!お前だって香澄に手出してんだろ!?」


小野先輩は尻餅をついたままの体制で後退りながら、情けないくらい裏返った声で叫んでいる。

ゆっくりと部屋に入ってきた那月さんを睨んでいるけれど、瞳の中にあるのは恐怖だ。


「フッ、何を勘違いしてるんだ?
安心しろ。あんな女に興味はない」



あれ?勘違いしてたのは、あたしも?

襦袢のまま、ポカンと那月さんを見上げると、一瞬甘く微笑んでけっこう痛いでこぴんをくれた。


「…っ」


「花乃、お仕置きは甘んじて受けて下さいね」