花色の月


暑いのに、寒気がする。

天気が変わる風が吹いたかな?



血が止まった指に新しい絆創膏を貼ると、立ち上がって仕事に戻ろうとした。

クラッと視界が揺れて、目の前がチカチカする。

しまった……もっとゆっくり立ち上がれば良かったと、近くの柱に手を預けながら深呼吸をした。


貧血でぶっ倒れてる暇なんてない。

それに、他人に言われた事に振り回されて、仕事を放棄するような人間だと、那月さんに思われたくなかった。



「花乃ー?」


「あっ、明美ちゃん……」


「どした?」


「ううん、大丈夫。どうしたの?」


明美ちゃんは、ちょっと眉を寄せたけれど思い出したように話を続けた。


「あっ、あのな……藤の間のお客さまが……」


明美ちゃんらしからぬ歯切れの悪い言い方に、おおよその見当がついたあたしは了解とだけ言って踵を返した。

どうせ、あたしを呼んでるんでしょう?



「花乃!一人で抱え込まんといてね」


追いかけるように後ろから掛けられた言葉に背中を押されて、藤の間に向かった。

でもね、明美ちゃん。
これは、あたしが解決しなければいけない事なの。

これから先、どんな過去の人が現れるか分からないし、手を出さない分香澄さんはまだまともな人だと思うから。



「…お待たせ致しました。お呼びでしょうか?」


「あー、来た来た!
俺暇だからさ相手しろよ。香澄の奴、如月って男とどっか行っちまったからさー」


「ぇ…?」


那月さん、来たの?

香澄さんと…どこへ……?



頭の中が真っ白になって、その後胸の中が真っ黒になった。