花色の月


ぼんやりと下げたお皿を流しの脇に積んでいく。

そんな状態だったから、取り皿が積みすぎで揺れた時に反応する事が出来なかった。



「キャッ!

あっ、ごめんなさ… ……つぅ」



足元で派手な音を立てながらお皿が数枚割れた。

慌てて破片を拾おうとして、指先を切ったけれどそんな事は無視して片付ける。

幸いそんなに深くないと思われる傷に、いつも持っている絆創膏を適当に貼り付けた。

心配して駆け寄ろうとする武さんを手で制して、精一杯笑みを作る。



「大丈夫、大丈夫だから……
…お皿割ってすみません…」


「怪我は?嬢ちゃん指見せてくだせぇ」


「大丈夫…」



お皿の破片を拾い終わると、心配そうな武さんの隣をすり抜けて、板場からも逃げ出した。


仕事に影響を出してしまう自分の未熟さに、目頭が熱くなる。


こぼすまいと上を見上げると、曇り空が鈍色をしていた。


…まるで、あたしの心の中みたい。




「ふぅ……仕事に影響出すのは若女将失格だよね」


「フミャア」


「フフッ、モモにも怒られちゃうね?
それにしても、何だか今日は暑いなぁ…」


「ンミャ?」


意外と血が止まらない指を握って止血しながら、ふわふわと寄ってきたモモに話し掛ける。

…けっこう痛い人の姿かも……