花色の月


いざ決戦の時!

まぁ、藤の間に夕食を運ぶだけの事なんだけど。


でも、それだけ自分を奮い立たせないと、足が前に進む事を嫌がるくらいに、二人に対して苦手意識がある事は事実だ。


お膳を運びながら、ほのかに香るくちなしの香りで自分を慰める。



そう言えば、藤の花言葉は歓迎と恋に酔うだっけ。

まぁ、月守旅館では歓迎って意味を込めてつけているんだけど、今居る彼らには『恋に酔う』の方が合っている気がする。


残念なのは、両想いではなく……
小野先輩は香澄さんを、香澄さんは那月さんをって所だろう。



「お夕食をお持ち致しました」


「おっ?狙ったようなタイミングじゃん!もしかして俺と二人になりたかったりー?」


あぁ、最悪のタイミングだったんだね。

二人揃っているよりも、小野先輩一人の時のが厄介かもしれない。

さっさとお膳を並べて戻ろうとすると、しっかり手首を掴まれた。



「あの…残りを運んでしまいますので……」


本来なら、ちゃんと二人がお部屋に居る時にお料理は運ばなければいけないんだけど、この際決まりを無視しようと思ったあたしは、早く残りを運び終えて仕舞いたかった。


「なに言ってんだよー。香澄がいない時を狙ったんだろ?いいよいいよ相手してやるよ」


なんて勘違いだろう。
『恋に酔う』じゃなくて『自分に酔う』って言った方がこの人にはしっくり来そう…