「花乃、光まで誘惑したらいかんよ」
「誘惑?えっ、なんで?する訳ないじゃん!」
あたしには那月さんが居るし、せっかく明美ちゃんといい感じなんだから、応援したい位だって言うのに。
なんかしたっけ?
食べ終わって、二人で玄関先の掃除をしていると、ふと思い出したように明美ちゃんが言った。
あたしが、光さんにちょっかい掛ける事は、まずないから安心してって言おうとした途端。
上がり框を丁寧に拭いているあたしと、箒でさっさと掃いていく明美ちゃんの横をおばあ様が通りかかった。
「花乃、もっと磨くように力を込めなさい。
明美、ちゃんと茶殻は撒きましたか?」
埃を舞い上げないようにする為に、茶殻を撒いて掃いていた明美ちゃんは、はいと元気よく返事をしている。
あたしは、まだ力が足りないのかとちょっと疲れてきた手を奮い立たせて、小さく返事をした。
「花乃、返事が聞こえませんよ」
「はいっ!!」
「大きければ良いって物でもありません。
耳が痛くなりますよ」
むぅ……大きく言ったら言ったでとやかく言われるんだもん。
おばあ様のお小言は、たまに何処かへ逃亡したくなるよって言っていた、桜ちゃんの言葉の意味を理解しましたとも。
