花色の月


眼鏡を返して貰うと、渡り廊下をとぼとぼと部屋に向かって歩いた。

部屋に戻っても、モモが居ないと縁側に出る気にもならない。

いくら日は照っていても、まだ桜も蕾の春先に一人で外に居るのは体も心も寒いので、ころりとベッドの上に寝転がってみた。

この部屋は、旅館の方とはガラリと変わって、ごく普通の女の子の部屋って感じになっている。

まぁ…畳だけど……





「…みんな……あの人が好きなのね」




あたしも、あんな出会いでなければ、桜ちゃんの想い人でなければ…

あたしも、モモみたいに甘えられたんだろうか…



頭の中にポンッと浮かんで来たのは

抱き抱えられた時に見えた、桜ちゃんとは違う男っぽい顎のラインと、たくましい腕だった。




「ないないない!!」



さっきの映像を払いのけるように頭を思いっきり振ると、枕に顔を埋めた。



「…桜ちゃん……あたし…どうしたら良いのかな…」



弱々しい独り言は壁に吸い込まれてしまって、なんだか余計に寂しさが増してしまった。



…馬鹿みたい……

あたしは、けっきょくどこに居ても

いらない子なんだろう。



もう自分の足で歩き出さなくてはいけないと思うのに、いつまでも甘えていていけないのに…


せめて、くよくよ考えずに済むように忙しければ良かったのに。




せっせとくよくよ悩んでいると、づくんと火傷をした方の手が疼いた。

…鎮痛剤切れてきたかなぁ……

火傷の痛みのせいで、夜もゆっくり眠れない日がこれ以上続いたら、あたしは寝不足で死ねるかもしれない。