一瞬驚いたような顔をした光さんは、困ったように頭を掻いている。
その脇で明美ちゃんは、何故か呆れたようにため息をついていた。
「……若女将、これが素だから困るんだよな…」
「そやな。無自覚って恐ろしいわ」
はて、なんの事だろう?
首を捻るあたしと、顔を見合わせてため息をつく光さんと明美ちゃん。
どうやら、二人は通じ合っているらしい。
何だか微笑ましいけど、ちょっと寂しいから混ぜて欲しいなぁ。
「若女将は、ここの跡取りですしね?
それに……如月さんが怖いですから…」
「タメ語で話したりなんて、何とも言わないと思いますよ?それにあたしが一番年下なのに敬語使われるのも…」
「いや、若女将も敬語ですしね?」
「だって……」
うん、何だか不毛な会話になってきた気がします。
どうやって抜け出そうか思案していると、明美ちゃんはさっさと板場に向けて歩き出してしまった。
「はよ行かんと花乃の分無くなるで?」
結局、あたしが使うから光さんも敬語を使うって事になってしまった。
う~ん、でも年上の男の人にタメ語で話すなんて、あたしにはけっこうハードルが高い…
あっ、那月さんと知花さまは別としてね?
まぁいっか。明美ちゃんと光さんが仲良くしてるんだし、お邪魔虫はしちゃダメだよね。
あ~ぁ、あたしも那月さんに会いたくなっちゃった。
今日の朝まで那月さんの所にいたんだけどね…
それに、しばらくはお仕事の邪魔をしないようにしようって、自分で決めたんだもん。
寂しさを埋めるように、懐に入れていたくちなしの練り香水をつけ直した。
うん、頑張れる気がする。
