「おはようございます。朝食をお持ち致しました」
藤の間の前で、声を掛けながら昨日の嫌な出来事を思い出して鼓動が早くなる。
「早く入れよ」
偉そうな小野先輩の声に、内心イラつきながらも顔には出さないでお膳を運ぶ。
たぶん、この人だからこんなに癇に触るんだわ。
見たくもないけれど恰も見せ付けるように、乱れた布団にあられもない格好で寝そべるのは香澄さん。
気だるげに起き上がって近付いて来ると、ふと何かに気が付いたようにあたしの襟首を掴んだ。
「あっ、あの…?」
「なんで、如月くんの残り香がするのよ。いつ会った訳?」
えっと…厳密には那月さんの残り香じゃないんだけど……似たような物か。
「おい、如月って誰だよ」
不機嫌そうに言ったのは小野先輩。
焼きもち妬く位なら、あたしに手を出したりしなければ良いのに。
「ちょっとした知り合いよ。
それより、ごはん美味しそうよ?頂きましょう」
お前には関係ないと顔に書きながら、それでも口に出さない香澄さんの表情からは愛情は欠片も感じられない。
いいカモって所かしら。
これでも黙っていれば見掛けも悪くはないし、お財布代わりにするならもってこいだ。
もしかすると、玉の輿なんかも狙っているのかも知れない。
廊下に出ると、ホッとした顔をした光さんが居て驚いた。
「何もありませんでしたか?」
