花色の月


驚いているあたしを他所に、那月さんは柔らかく微笑みながら、蓋の上の白いくちなしの花に指を滑らした。


「この程度ですけどね。花乃を想って作りましたから、御守り代わりに持ってて下さい」


「うん、大切にするね」


小さな容器は、添えてくれた小さな袋に入れた。

たぶんこの袋も那月さんお手製だと思う。
だって、楓ちゃんの首に付いている、ちりめんのリボンと同じ柄だったから。

楓ちゃんとお揃いだね。


那月さんは、袋に入れたり出したりしているあたしの手から、入れ物をとって蓋を開けた。

辺りにいい香りを漂わせながら、そっと指先ですくうとあたしの手首や耳の後ろに塗ってくれる。


本当はね、ちょっとそれを待ってたの。
だって、初めて付ける時は那月さんに付けてもらいたかったんだもん。


付けたばかりの香りを確かめるように、あたしの首筋に顔を埋めた那月さんの吐息がくすぐったい。



「な、那月さん……くすぐった…」


「花乃に付けると、香りがますます私好みになりました」


「香り変わっちゃったの?」


そ、それは困る!
折角、那月さんと同じ香りだと喜んでいたんだから。


「変わったと言うより、花乃に馴染んだって感じですね。同じ物でも付ける人によって、香りは色んな顔を見せてくれるんですよ」


よく分からないけれど、那月さんが嬉しそうしているから、これで良いのかも知れない。


その夜は那月さんと、くちなしの香りに包まれて眠った。