花色の月


「那月さん、洗いにくいんだけど……」


「背後霊だとでも思って、気にしないで下さい」


「余計気になります!」


「おや?そういう物ですか」


あたしが那月さんの草履を履いてきてしまったから、那月さんは隅の方に置いてあった突っ掛けを履いている。

あたしが、そっちを履くべきだったんだろうけど…


「花乃、まだですか?」


「もう終わります。遅くてすみませんでしたー」


「その言い方は憎たらしくて桜介みたいですよ」



那月さんの中では、憎たらしいイコール桜ちゃんらしい……桜ちゃんが聞いたら怒るだろうなぁ。

二人で電車ごっこみたいにしながら、また板の間に上がると那月さんの腕がするりと離れていった。

奥に行く那月さんの後ろ姿を見ながら、ちょっと寂しくなったなんて思ってしまう。



「これを、花乃に渡したかったんです」