花色の月


ーーーポツン

頬に雨粒が当たる。

そろそろ帰った方が良いと分かっていながらも、なかなか腰が上がらなかった。


このまま……

不吉な事を考えてみるけれど、実行には移せそうにない。
いや、移せなくていんだけれど…



「帰るね……」


フラリと立ち上がると、あんなにはっきり夜道を照らしてくれていたお月さまが、雨雲に隠れてしまった事に気が付いた。

…これは流石に危ないかもしれない。


ポツリなんて可愛らしい物じゃなくなった雨足に、少し焦りを覚えた。

足元が殆ど見えない上に、雨が道を流れ下っている為、滑って足を取られそうになる。

あたしが、部屋に居ない事を知っている人は居ない。

探しになんて来てほしくない気分で、気が付かれないように出てきてしまった事を今更ながら後悔した。



恐る恐る踏み出した足は、人が踏み締めて固くなった赤土の上を滑った。

このまま下まで転げ落ちる事を覚悟して、固く目を瞑ったあたしの腕を、寸でのところで掴まえた手の感触に、驚いて目を見開いた。






「良かった、何とか間に合いましたね」