花色の月


たぶん、それが生きていくって事なんだと思う。

過去を捨てて、都会で成功したお父さん。

恨んだ事が無いと言えば嘘になるけれど、それよりも忘れられてしまった事が……寂しかった。

お父さんみたいな武さんは、側に居るけれど…

たまにあたしとお母さんを景色の綺麗な所に連れてってくれて、二人の写真を撮ってくれたお父さんの笑顔を、忘れる事はあたしには出来ないみたい。



「お母さん……は…寂しくない?」


だって、お月さまからあたしを見守ってくれているなら、あたしを捨てて旅館を捨てて出ていったお父さんの事も見ていたんでしょう?


「……あたしだったら…那月さんに取りついちゃうかも…」


我ながら今日のあたしはネガティブだ。

こんなんじゃあいけないと思うのに、意味深な香澄さんの言葉が胸の奥に引っ掛かってチリチリと痛んでいる。



「寂しくは無いかもね……こんなに石が綺麗なのも、こんなに新しいお花が供えられているのも、お母さんが忘れられてない証拠だもんね………」


あたしが死んだら、こうして通ってくれる人は居るんだろうか…

那月さんは、また町に遊びに行ってしまうんだろうか…






ぼんやり空を見詰めるあたしの前を、檸檬香の煙が、ゆらゆらと月に向かって上って行く。

お母さんに届くかな…