「それに、花乃はちゃんと歩んでますよ。
アホの登場で少々動揺しているだけです」
…アホ……まぁ確かに。
それを好きだと思って、傷付いて馬鹿な事をしていた自分は何だったんだろうと
左の手首に視線を落とした。
「もう、しないで下さいね。
もししたら、倍の傷を私の腕に付けますから」
真剣な那月さんの言葉に、頷く事しか出来ない。
やっぱり、知ってたんだね……
あたしの手首には、消えない傷が一つある。
『やっぱり彼女には出来ない』とあいつに言われた時、やっぱりあたしは誰にも必要とされないのだと、自分の存在に絶望してカッターの刃で切った傷。
小野先輩に必要とされなかったから、というより……誰もあたしを必要としないんだという事がどうしようもなく辛く感じたんだと思う。
那月さんはあたしの事をよく分かってる。
あたしが自分を傷付けたら、那月さんにも傷を作ると知ったら二度と出来ないもの。
「ぁ……お仕事…」
「仕事なんて花乃の一大事に比べたら小さい物です。帰ってからゆっくりやりますよ」
「…ごめんなさい」
大きな仕事が入って集中していた筈なのに、あたしの危機を察知して来てくれた事が申し訳なくて視線を落とすと、那月さんの指が顎に添えられて上を向かされた。
「私は謝罪など聞きたくありませんね。
それに、申し訳ないだけなんですか?」
「ううん……不謹慎だなって思うけど…嬉しかったの…」
「えぇ、私もちゃんと花乃の危機を察知出来て良かったです」
いつでも分かる訳ではありませんからと、柔らかな微笑みを浮かべる漆黒の瞳に安堵して、言わなければいけない事を思い出した。
