「…いつ……?」
いらしたんですか?って続けなければいけないのに、ふと合った知花さまの瞳が怖くて下を向いてしまった。
「ここで年を越したんだ」
あぁ…あたしがかえっても来れなかった、今年のお正月なんだ…
あたしの言葉には大して興味ももたなかったのか、桜ちゃんがクスリと笑った。
…すごく楽しかったんだなって、今の顔から分かるくらいは桜ちゃんの側にいる。
「てか、自分家は?帰らなくていいの?」
「う~ん、既に俺の家じゃあ無いしなぁ。
それに今は創作中らしいから、邪魔しちゃ悪いだろぉ?」
桜ちゃんが旅に出る前も、この人はたびたび桜ちゃんの部屋に来ていたから知っているけれど、どこに家が有るかは知らないななんて、二人の話をぼんやり聞きながら眺めていた。
「なぁ、桜介。
俺はどうすればいんだぁ?」
「まぁ、ここに居るんだったら…
あのね、ばあちゃんが小桜の間はどうかって、狭めだし裏手だから安いよ?
でも、部屋から花見が出来る部屋」
「じゃあ、そこに」
知花さまが即答したのは、小桜の間って名前に引かれたんじゃないかなって思った。
それに、その部屋は桜ちゃんのお気に入りの部屋でもあって、お客さまが使ってない時に、二人でお花見をしたこともあった。
…今年の桜は、知花さまと見るんだね……
実はあたしの部屋は小桜の間を通りすぎて、渡り廊下を渡った所にある。
旅館と月守家の間に有るのが、小桜の間。
だから、親しい人が遊びに来た時に泊まるような、そんな部屋だった。
