花色の月


もう我慢の限界だ。
いくら何でも言いたい放題しすぎでしょ?

あんたねぇ、さっきの台詞を那月さんと桜ちゃんと知花さんの前で言える?
自分がどんだけ冴えないか思い知ればいい!


「お付き合いしている人がいます。
ご用がないのでしたら、下がらせて頂いてもよろしいでしょうか」


「えーウソウソ、あんなに引っ込み思案だった癖に何言ってんだよ。てか用ならあるけど?」


こいつぅ……客じゃなけりゃあもっとぞんざいに扱ってやるのに!

あたしの言葉をのっけから否定した目の前の勘違い野郎は、仕事が詰まっていると言うのに訳が分からない自分自慢をしている。

もちろん内容なんて右から左。




「ご用はなんでしょうか?」


頭の血管が切れそうだけれど、ここで勝手に退出する訳にはいかない。

こんな奴でも客には代わりないんだから。



ゴンッ

一瞬何が起こったのか分からなかった。

目の前には勘違い野郎の顔、その向こうには天井が見える。

頭を畳に打ったんだと分かったけれど、なんでこんな事になっているのか分からない。


「久しぶりだな、花乃を頂くのは」


耳元で囁かれて、体が金縛りにあったように動かなくなった。