花色の月


「いやー、お前の名字だとは思ったんだよ!珍しいけどまさかなってなぁー」



この旅館にはそぐわない、今時のチャラチャラした格好。

ツンツンに立てた髪の毛が針ネズミみたいだ。

…あたし、この人のどこが良かったんだっけ?



「お茶をお煎れしますね。
私も、まさか先輩だとは思いませんでした」


「まーなー、お前の名字よりいっぱい居るし?
てか、お前眼鏡止めたんだ!しかも着物似合ってるしいい女じゃん」


あんたに誉められてもちっとも嬉しくないわね。

と言うか、実に不快。


微笑みだけ浮かべてお茶を置くと、干菓子を添えてそのまま退出しようとした。

…悪いけど、部屋の担当は明美ちゃんに変わってもらおう。

おばあ様は、今日面接に三人来るから手は離せない。



「まぁまぁまぁまぁ、ちょっと座れよ。
久しぶりだろ?」


まぁを何回言うつもり?
いくら久しぶりでも、話すことなんてないんだけど?
しかも人手が足りてないんだから、急いで次の仕事に向かいたい!


「ねぇねぇねぇ、お前って彼氏いんの?
っている訳ねーかー」


ねぇも多すぎる。
しかも、いる訳ないって何?

何様のつもりだと口を開こうとした時、更に被せるように不愉快な事を言われた。


「だって、お前俺の事好きじゃん?
田舎に引っ込んでも、こんな所じゃいい男友もいないし、忘れられなかったろ?」


はい?
…今、なんて?


「あー、誰だっけ?迎えに来たのもダサかったもんなー。あんなのしか居ないんだろ?」


光さんの事を言ってるの?
あのね、仕事中にあんたみたいにチャラチャラしてたらおかしいでしょ?
ってか、うちの制服がダサいって言いたいわけね。


「お言葉ですが…」


「いいいい、嘘なんてつかなくってさ!
まだ連れ来ないしさ、寝る?」