「でも、那月さんが手を出したら……ダメでしょ?」
「そうですね…たまに段を持ってるのが鬱陶しくなります。なければやられてしまうんでしょうけどね」
やっとあたしの目を見てくれた那月さん。
漆黒の瞳に映るあたしは、ホッとして自然に微笑んでいた。
「…不安だったんです。知っていても…実際にそんな事をしていた相手を目の前にしたら……花乃が私に愛想を尽かすんじゃないかと…」
「あたしも、忘れたいような過去を持ってるよ?
そんな相手が現れたら……那月さんはあたしを嫌いになる…?」
「なりません!なる訳無いじゃないですか!」
「ありがと、あたしも一緒。
確かに複雑だったけど……那月さんはあたしを選んでくれたんだもん。ぐずぐずしてちゃ折角のデートが台無しになっちゃうもんね」
いとおしげにあたしの髪を撫でる那月さんは、ちょいちょいポーカーフェイスをする。
でも、ちゃんと瞳を覗いたら分かるよね。
那月さんだって、不安になるんだって。
「花乃、お腹空きました?」
「うん、空いちゃった。
あ~ぁ、ピッツァもったいなかったね」
服の汚れは意外と簡単に落ちて、膝っ小僧には綺麗なハンカチを巻いた。
二人で手を繋いで歩く道は、さっきと同じ道なのに全然違う道みたい。
色褪せて見えた景色が、那月さんが隣にいるだけで鮮やかに目に映る。
ふと、先程の事を思い出して笑いがこぼれた。
