花色の月


「すみません、嫌な思いをさせてしまいましたね」


何だかあたしより那月さんのが落ち込んでるみたい。

相手を覚えてないって言うのもまたすごいなぁ。
あたしは、嫌ってほど忘れられないのに…


「おまたせ致しましたー」


妙なタイミングで運ばれてきたピッツァを前にしても、そんな気にしてない筈なのに食が進まない。

こんなんじゃあ、那月さんが余計に落ち込んでしまうと、味も分からないのに無理矢理口に運んで、笑顔を作って他愛もない話をした。


「花乃……」


「次はどこ行く?
あっ、そろそろ電車に乗らないとダメかな」


「…花乃」


「あっ、モモと楓ちゃんにお土産買おっか!
何が良いかなぁ…」


いきなり立ち上がった那月さんは、まだ殆ど食べてないテーブルをそのままに、あたしを抱えるようにしてレジに向かった。


「那月さん…?」


那月さんとは思えない乱暴な仕草で勘定を終えると、荒っぽくドアを開けて外に出る。

戸惑ったようなレジのおねえさんが、いつまでもこちらを見ていた。

そのまま、何も言わない那月さんに引きずられるようにして道を歩く。

那月さんの手が、痛いほどあたしの腕を掴んでいるけど、そんな事は言えなくて……



「那月さん…あの……」