花色の月


「…どなたですか?」


しらばっくれてる訳じゃなくて、本当に覚えてないみたい。
那月さんって…人を覚えるの苦手?


大人っぽくセクシーな綺麗な人。
がっつり開いた胸元から見えるのは、女のあたしでもドキッてしてしまうくらい豊満で羨ましい。

男の人だったら特に、こんな人忘れないんじゃない?



「あら、忘れちゃったの?薄情ね~。
あの夜は最高だったわ、またいつでも呼んでね」


その言葉の意味は、あたしでも分かる。
那月さんと、そう言う意味で夜を過ごした人なんだ…


「あいにく、興味のない物は一瞬で忘れてしまうので、もうお会いする事は無いと思いますが」


「あら、つれないのね~?
どうせその子だって遊びでしょ?」


「違います。もう、そう言うのは止めましたから。
今は彼女だけです」


真っ直ぐな那月さんの瞳には、女の人を見ているのに、まるであたしが映っているみたい。


「あらそ、つまんないわね。
前の気だるげな瞳が好きだったんだけど、今の真っ直ぐなあなたは好きじゃないわ」


カタンと立ち上がった女の人は、あたしを上から下まで品定めすると、フッと鼻で笑った。



「それにしても、あなたってロリコンだったのね~」


クスクス笑いながらレジに行く後ろ姿を見ながら、何とも言えない気持ちになった。

…ロリって……あたしもう成人してるんですけど…