花色の月


「さぁて、今日はお前のロン毛?
それとも、こっちのかわい子ちゃんかな?」


「この子をお願いします。
仕事で髪を結ったりするので、長さはキープしたままで。あとはお任せにするので、貴方の腕が問われますね」


「まっかせとけっ!
もっと可愛くしちゃうぜーっ!ってかわい子ちゃん名前はなんて?」


とってもテンションの高いこの人が、那月さんの知り合いなんだろうけど……ついて行けそうにありません…


「あっ、はじめまして。
月も…ング………」


「こんな奴に名乗る必要はありません。
髪を切るだけなんですから」


あたしの口を覆って、ちょっと訳が分からない事を言う那月さん。

…普通美容室でも名乗ると思うんだけど……


「そっかそっか、お前にもやっと大切な人が出来たんだなっ!良かった良かった!あのままじゃ、いつか女に刺されて死んじまうんじゃないかって、心配してたんだよー」


「その口、早急に閉じないと永遠に喋れなくして差し上げますよ」


那月さんの笑顔がとっても怖いです…

なるほど、那月さんが女遊び激しかった頃をよく知る人なんだね?



「さぁて、じゃあ如月に殺られないうちに、ちゃちゃっと切っちゃおっか!このアンケートに記入してくれる?
あっ、如月が煩いから名前の所はかわい子ちゃんでいーよーっ!」


…それは痛い子過ぎるので、空欄にさせて頂きます。

あたしがアンケートに記入すると、直ぐに鏡の前に座らされた。

そして、那月さんもすぐ側の椅子に座って珈琲を飲んでいる。

…どこから珈琲が?

でも、その珈琲の正体は直ぐに分かった。
少し離れた所から那月さんをハートの瞳で見つめているのは、ここの美容師さんだ。
…因みに、この美容室全員男性なんだけど。

男性にもモテるのね。


「花乃には、甘いカフェオレを頼んで置きましたから、次期に来ると思いますよ」


那月さん、ここは喫茶店では無いと思うんですけど、なんでクッキーまで食べてるんでしょう?