花色の月


「まぁ、外す練習はしても良いかもね」


そう言いながら、あたしの手に眼鏡を置いてくれたのは桜ちゃんで、ホッとすると一粒だけ涙が転げ落ちた。



「てか、無期限ってなに?」


「なんの話だぁ?」



涙は二人には見られなかったみたいで、別の話題に移っている。

あたしが居る必要性はこれっぽっちも無いと思うんだけど、前には知花さま後ろには桜ちゃんで動く事が出来ない。


そんなあたしの頭の上で二人が話しているのはなんだか変な感じで、逃げ出すにはどうすれば良いのかと一人きょろきょろしていた。



「すっとぼけないでよ。
宿泊の日数に決まってるだろ?ばあちゃんがどうしたもんかって相談してきたんだから」



「金は払うけどなぁ?」



「あのね、この部屋のファンは多いの、長期滞在するなら部屋代も馬鹿になんないよ?」



「じゃあ、安めの部屋に引っ越すかなぁ。
あっ、それか桜介の部屋に居候ってもの捨てがたい」



えぇっ!?そんなぁ…
桜ちゃんと一緒にいる時間が、知花さまの出現で減ってしまっているのに、これで二人が同室になったら……




「……うちの旅館で一番高い部屋になりますけど?よろしいです?
第一、紅茶屋はどうしたのさ?潰れたの?」