花色の月


「…私がまだここに来たばかりの事でした。


まだ、誰にも心を許してなくて、十夢にすら一言も話してない時。

一人で行った月の原で、綺麗な人に会いました。

花を祠に供えて、両手を合わせて祈る姿が見たくて、それから毎日通ったんです。


ある日、その人が小さな女の子を連れて月の原に来たんです。


その子の、真ん丸な瞳が私を捕らえた時。

私は……心まで持ってかれてしまったんです。


今でこそ、この年の差で付き合っても、そんな違和感ありませんけど、中学生だった私が小学生にもならない女の子に恋をしたんです。

その時、ただ立ち尽くしていた私の所に、その女の子があどけない笑顔を浮かべてトコトコ近寄って来ました。



『これ、花乃の好きなお花なの。
おにいちゃんにあげるから元気出してね』

って、くれたのが…くちなしの花でした」




懐かしそうな那月さんの笑顔を見て、フワッとある場面が浮かんだ。