「桜ちゃん…桜ちゃーん!」


桜介は、動き始めた電車の窓から身を乗り出して手を振る。


「いってきまーす!」


追い掛けようと走り出した花乃ちゃんを、後ろからなっちゃんが抱き締めた。

まるで映画のワンシーンみたいな光景に、ぐしぐし手拭いで涙を拭く武さんがミスマッチだ。

……さて、そろそろ桜介も中に入れないとな…



「桜介、…なぁんだ泣いてんのかぁ?」


「だ、だって!」


「ほら、花乃ちゃんが泣くのはなっちゃんの腕ん中。桜介が泣くのはどこだっけなぁ?」


体当たりするように飛び付いてきた桜介の体を抱き止めて、回りの目から桜介の泣き顔を隠してやった。

だってなぁ、桜介の泣き顔をまじまじ見ていいのは俺だけだろぉ?


右隣の野郎が、涙ぐむ桜介を見て顔を赤くしたのを、俺は見逃しやしねぇぞぉ?

ギロリと視線だけよこすと、サッとすごい勢いで向こうをむいた。

ふん…そのまま窓の外でも見てやがれ。



「桜介、なんか飲むかぁ?」


「…ん」


赤い目をした桜介は、俺が手渡したペットボトルからコクンと一口飲み込んだ。

まったく、そんな泣きはらした顔で行ったら、瑠璃が心配するだろぉ?

チラッとこちらを見て、桜介の色気にやられたらしい隣の馬鹿野郎を、どう料理してやろうかと思案した。