花色の月


「じゃあね」


「桜介の事は任せろよぉ、俺が責任もって可愛がるからなぁ」


駅のホームにまで見送りに来てくれた花乃ちゃん達に、自信満々でいい放つとガツッと桜介に足の指先を踏まれた。

…桜介……それは地味にダメージでけぇぞ…

痛みに声も出ない俺を余所に、別れの挨拶が交わされる。

てか、何がそんなに気にさわったんだぁ?



「桜ちゃん、たまには帰って来てね…?」


既にゆらゆらと涙の溜まる瞳でこちらを見上げている花乃ちゃんの後ろには、駅になんて何年ぶりかって感じのなっちゃんが立っている。



「花乃の事は心配しないで下さいね。お兄さんのご多幸をお祈りしています」


「…あんたの兄貴じゃ無いんだけど」


なっちゃんの言葉に、桜介はあからさまに嫌な顔をしている。


「言葉のあやって奴ですよ。貴方は花乃のお兄さんみたいなものでしょう?
私が花乃と結婚したら、お義兄さんになるじゃないですか」


「僕は従兄ですぅー!
まぁ、花乃は大切な妹だけど。泣かせたら只じゃ置かないからね」


「それは約束出来ませんね。
花乃が安心して泣けるのは私の腕の中だけなんですから」


「んったく、あー言えばこー言う……
花乃を裏切ったり悲しませたら承知しないよ?」


「えぇ、その時は煮るなり焼くなりお好きにどうぞ」


…二人とも笑顔だから余計に怖いなんて言ったら、間違いなく矛先は自分に向くだろう。

ここは黙っておくのが賢明だな。