翌朝、目覚まし時計に起こされるまで、ぐっすり眠り込んでいたあたしは、だいぶ疲労感が無くなっている事に気がついた。
心の疲れまで癒して貰った気がして、もうぬくもりも残っていない左手を見つめる。
あの繊細な音を紡ぎ、暖かくも美しい器を生み出す指先が触れていたあたしの手は、まだまだ頑張る余地のある甘ちゃんの手。
いつか、釣り合える手になりたいとゆっくりと握りしめた。
「ごめんな…言うて無くて……」
あたしが着替え頃、おずおずと現れた明美ちゃんは、そう言って頭を下げた。
そんな…謝るのはあたしの方だ。
「あたしこそごめんね?…無神経な事沢山言っちゃった…」
明美ちゃんはてっきり関西の人と遠距離恋愛中なんだと思っていたあたしは、どんな人なのかとか会いに行かないのかとか聞いてしまっていた。
「なんかな、花乃は知らんから悠を生きてる人として扱ってくれたやろ?それが嬉かってん……ただ遠恋しとるだけみたいな気分になれたんよ」
明美ちゃんが切なげな瞳で思い描くのは、もう会えない愛しい人達。
底抜けに明るくて、いつもあたしを笑わせてくれる明美ちゃんは、あたしなんかじゃ分からないような深い悲しみを抱えていた。
「明美ちゃん…」
「そんな泣きそうな顔せんといて!
ごめんな、会えもせん天国との遠恋やって言えんくて」
「明美ちゃんも謝んないでよ!
明美ちゃんは何も悪く無いんだから、ね?
もし、言いたくなったら話してくれたらいいし、言いたくなかったら言わないでも…」
「ありがと……いつか聞いてもらって、ええ?」
明美ちゃんと、そんな約束をして朝の仕事に向かった。
桜ちゃんと知花さまが出発するのは、お昼過ぎの予定だ。
