花色の月


心を込めて歌い上げたアヴェマリアは、余韻を残しながら夕闇に溶けていった。

…やっぱり、歌うのは気持ちいい。



「花乃ちゃんリクエストしていいかぁ? Let it be 」


「那月さん、伴奏お願い出来ますか?」


頷きながら聞くと、那月さんはちょっと心配そうな顔をした。


「大丈夫。…辛くなったら止めるから」


それならと微笑んで、那月さんの指先からまたメロディーが流れ出す。


Let it beを歌ってからは、武さんのリクエストのフォークソングを歌って、ちょっと疲れたから先に部屋に帰らせて貰った。







「花乃、保冷剤いりますか?」


「ううん、頭は痛くないの……
ちょっと疲れただけだから」


一緒に部屋に来てくれた那月さんの黒髪を、夜風がさらりと揺らしていく。

ふわりと風に乗ってきたのは、甘いくちなしの香り。

…那月さんの香りなのか、花の香りなのか分からないけれど、あたしにとっては安心する香り。


「花乃、おやすみなさい」


「おやすみなさい……
…那月さん……寝るまで居てくれる?」


眠いからか、恥ずかしいこともすんなりと口から滑り出た。

だって…眠いけど、少しでも一緒に居たいんだもん…



「えぇ、居ますよ」


那月さんは、ちょっと驚いた顔をしたけれど、直ぐにそっとあたしの手を握って微笑んでくれる。

指の長い那月さんの手に指先を絡めると、安心して目を閉じた。