送別会と言う名の飲み会は、桜の間で静かに始まった。
今日は新しいお客さまもおいでで、常連さんみたいに宴に参加して貰うわけにはいかないからだ。
…しかも露天風呂付きの部屋にお泊まりの、ラブラブな若夫婦だからね。
お邪魔しないように、会は静かな物だった。
たぶん本調子ではないあたしを、みんなが気遣ってくれた事もあるんだろう。
「さぁ、嬢ちゃんの為に炊いたお赤飯ですぜ!」
「…桜ちゃんの為じゃ無かったのね」
「ほれほれ、那月くんも食べなさい」
ちょっとお酒が入って顔を赤くした武さんが、ギューっと那月さんに抱き付いた。
…ここは焼きもち妬くべきですかねぇ……
「今すぐ手を離れないと、窓を1つ駄目にしますよ」
な、那月さん…?
窓を1つって…武さんをぶん投げるつもりですか?
「相変わらずだなぁ、なっちゃんは」
「桜ちゃんもおじいに柔道習ってたけど、おじいって空手も出来たの?」
「あぁ、なっちゃんは両方得意だよ。
一番筋が良かったからなぁ」
武さんとじゃれ合う?那月さんを見ながら、知花さまにお酌をした。
桜ちゃんは、向こうの方で明美さんとおばあ様に何か怒られている。
「なぁ、花乃ちゃん…
頑張るのは良いけどなぁ、辛くなったらなっちゃんに甘えろよぉ?一人で抱え込むな」
「…うん」
「なっちゃんはな、どこか自分でいいのかなって思ってる所があるから、花乃ちゃんが頼ってやったら喜ぶぞぉ」
