花色の月


ゆらゆらと揺らめくのは白い花

ふわふわと漂うのは白い雲

そよそよと風が梢を撫でる

そろそろあなたの微睡みの時


低いのに澄んだ甘い声が、あたしの回りに渦を巻く。


眠りに落ちる瞬間、そう言えば那月さんの歌声を聞いたのは初めてだったな、と思った。








「花乃…寝た?」


「えぇ、どうしましたか?」


そっと襖が開いて覗いたのは、困ったように眉を下げた明美さんだった。


「…うちが黙っとったんは、別に花乃を信用してない訳じゃ無いんやけど……傷付けちゃったやろか…」


「話せば分かりますよ。貴女は花乃にとっては初めての友達ですから」


「…あんたは、ほんま何でも知ってるみたいやな」


「なにも知りませんよ。
…貴女の傷は癒えてないんですね」


「ほら、知ってるやないの。
いいんよ?別に隠してる訳やないし」


「そうですね、橋口明美さん?」


「フッ、うち本当は橋口になれんかった。
死んでも、悠と一緒のお墓にも入れんのやで?」


だから、自殺を思い止まった。
と、いつもの明るい彼女からは想像出来ないような寂しげな顔をした。



「いっそ、家族三人で眠りたかった…」



彼女の言葉を風がさらっていく。

また、雨が降りそうだ。