花色の月


「…はぁ……」


自分の役立ずっぷりに泣きたくなりながら、包帯の巻かれた手を睨み付けた。



切り傷に加え、火傷まで作ってしまったあたしは、なんの仕事もさせられないからとお暇を出されてしまった。


縁側に座ってモモの耳の裏をくすぐるくらいしかやることが無い 。




「花乃、桜介を知らないかい?」



「いえ…」



おばあ様またノックもしないで入ってきちゃった。
ノックしてって言えないあたしが悪いんだけど…




「知花さまの所かしらねぇ…
ちょっと行って、板場に来るように伝えておくれ」



「……え…?」



あたしが知花さまの部屋に行かなきゃ行けないの?

言葉になる前にしまったドアを見ながら、文句を言える立場でも無いしと、重すぎる腰をあげてモモに手を振って部屋を出た。



廊下を歩いてるだけで、苦しいほど鼓動が早くなる。

もし、桜ちゃんが居なかったら…?


ぐずぐずと重い足どりで目的の部屋を目指す。

願わくは桔梗の間につく前に、桜ちゃんに会えますようにと念を送っていたけれど、どんなにぐずぐず歩いたってしばくすると桔梗の間の前には着いてしまった。




すぅ~っ……

悩んで遅くなっても良くないと、思いきって軽くノックをした。

軽すぎる音だったかも…



「どうぞぉ?」


それでも、知花さまには聞こえてしまったようで、私服ではあるもののキチンと正座をして襖を開けた。



「失礼致します。こちらに桜介は来ていますでしょうか?」



距離を作りたいあたしの口からは、簡潔に固い言葉が滑り出した。



「あぁ、桜介だったら直ぐに戻って来る。
桜介に用だったのかぁ?」



「はい、言伝てを…」




座椅子に座って煙草をくゆらせていた十夢さんが、クルリと振り返って少しおどろいたように目を見開いた。




「…私服だと、中学生だなぁ?
きちっと髪結って着物着てたから年相応に見えたんだな」




「……」



ふん、良く言われますよ。