「那月さん、それは……竪琴?」
一旦家に帰って楽器を持って戻ってきてくれた那月さんを、布団寝転がりながら眺めている。
静かにチューニングしている真剣な横顔が綺麗で、そこだけ別な空気が流れているみたいだった。
「そうですね、木製弦楽器でLeierと言います」
「ライアー?」
「えぇ、日本ではあまりメジャーな楽器じゃありませんけどね。三味線でも持っていた方が様にはなるんですが…」
那月さんは、そう言って柔らかく微笑むと、軽く着流しの襟元を直した。
「でも…那月さんが持ってる楽器は、他のが想像出来ないかも…」
初めて会った時も、それを弾いていましたよね。
って言おうと思って口をつぐんだ。
本当は、あれが初対面じゃないものね?
溺れたあたしを助けてくれた時に、朧気だけれど駆け寄ってくる人影を覚えている。
「そうですね。
一人で弾こうと思ったら先客がいて驚きました。しかも、あの時の女の子がこんな綺麗になって、あんなに美しい歌声をしているなんて思いませんでしたから」
「……あの時、直ぐに誰だか分かった…の?」
「えぇ、いくら月明かりでも私が花乃を見間違う訳がありません」
そう甘く囁いてくれる那月さんを見て、頬が熱くなるのを感じた。
「では、一先ず子守歌でも弾きましょうか。
今日の宴では、何を歌いますか?」
「……アヴェマリアを…」
「そうですか、雪乃さんも喜びますね」
あたしの頬にそっと指を滑らせて、ライアーの弦に戻った指は懐かしい子守歌を奏でた。
不思議……那月さんはどこまで知っているんだろう?
だって…アヴェマリアの事も、お母さんが歌ってくれた子守歌も知っていたんでしょう?
偶然にしては出来すぎてるもの……
