「なんで、十夢が花乃を殴るんですか?」
「な、なっちゃん…取り合えず落ち着こうな?」
「場合によっては、生かしてはおけませんね」
やっと、素直になろうと思ったのに、十夢を消されちゃ叶わない。
両手を上にあげる十夢と、腕組みしながら漆黒の瞳で射るように睨み付ける那月の間に立った。
「僕が、花乃を傷付けたんだ」
「えぇ、あれだけ花乃の心を傷付けられるのは、貴方くらいでしょうね」
分かっていたのか、冷たい瞳は僕を蔑むように見下ろしている。
「その僕を十夢が叩こうとした。
…まさか……花乃が飛び込んで来るなんて思わなくて…」
「十夢の状況は分かりました。
ですが、貴方が花乃に言った事は、決して言ってはいけない事でした。貴方はいつから人の好意を踏みにじれる人になったんですか?」
「ごめん……ついカッとなって…」
そんな言い訳が通用するとは思っていない。
ここは、本気で那月に殴られる覚悟をした方がいいかもしれない。
空手の有段者だし……骨折れるかな。
「貴方に居場所は、無くなりはしませんよ?
花乃の中の貴方の場所に、私が侵入する訳でもありません。花乃の中に私の居場所が新たに出来ただけですから」
形を変えても、花乃の中で貴方が大切な存在である事に変わりはありませんから。
まるで、僕の心の中を覗いたように、真っ直ぐに僕を見つめる瞳は、もう冷たい色はしていなかった。
「……ごめん…なさい。
気が済むまで殴ってくれていいから」
「お、おい」
僕の言葉に、慌てたように十夢が口を挟んだ。
僕は骨折覚悟だよ。
「馬鹿なんですか?
私が花乃と同じ顔をした貴方を、殴れる訳が無いじゃないですか」
