「僕……居場所が無くなるような気がしたんだ…」
そんな事は無いのにね。
どうも、居場所って物に対する思いが人一倍強くて、時にはこんな惨事を引き起こす。
僕は両親の顔を……写真でしか知らない。
雪乃さんや、花乃のお父さんが可愛がってくれたけれど、いつも花乃が羨ましかった。
だから、そんな思いを心の奥底に抱えていたから…
ここの跡継ぎになれば十夢と一緒に居られないと分かっていても、どうしようもなく不安で全てを捨てて飛び込めなかった。
嫁は貰いたくない、でも跡継ぎって立場を捨てられない、どっちかしか選べないと知っていても十夢が会いに来てくれるのをいい事に、甘えてたんだ。
ぽつりぽつりと話す僕を、十夢のグレーの瞳が優しく見つめてくれている。
「馬鹿、お前の居場所はここだろぉ?」
両手を広げて言ってのけるこの男は、分かっているんだろうか?
身も心も、十夢に全て捧げたら…僕はもう離れられないって。
「さてと、そろそろなっちゃんが来る頃だなぁ。二人で怒られるか」
「…うん」
僕の肩を抱くこの腕が、誰か別の人を抱いている所を想像しただけで、嫉妬に胸が焼けるのに……
どうして、離れる事なんて考えたんだろう。
「十夢、どういう事ですか?」
僕が、やっと素直に十夢の腕に身を預けた時、静かに怒り狂った那月の声がした。
