花色の月


十夢が僕に向かって手を上げた事に呆然として、ただ打たれるのを待っていた。

だから、まさかその間に花乃が、飛び込んで来るなんて思わなかったんだ。


僕より身長が低いから、頬ではなく頭に振り下ろされた手は鈍くて重い音がした。



「花乃ーっ!!」


声もなく倒れる花乃に、叫びながら駆け寄る。

咄嗟の事に止められなかった十夢の手が失速しながらも、しっかり当たってしまっていた。


それからは、真っ青になった十夢を放置して医者を呼んだり、気を失ったままの花乃を運んだり大騒ぎだった。

とは言え、お客さまも居るからどれも内密に、ささっと成されたんだけど。

裏手の廊下での出来事で、たぶんお客さまは誰も気が付かなかっただろう。





「脳震盪ですね。その上疲れが溜まっていたんでしょう。
まぁ、しばらくしたら起きるでしょうが、今日の所はゆっくり休ませておあげなさい」


どんだけ重いんだよ。十夢のビンタは。

でも冷えた頭で考えたら、それだけされる事を僕は花乃に言ってしまっていた。

花乃は、僕の事を思って接客や慣れない帳簿付けを夜遅くまでしていたのに、僕は花乃の想いを踏みにじったんだ…



「やべぇなぁ……俺なっちゃんに殺されるかもなぁ…」


ただの脳震盪と分かって、少しホッとしたのか十夢が隣でぼやいている。


「…取り返しのつかない事を……しちゃった…」


「取り返しはつくさ。ちゃんと謝ったらいいだろぉ?」


あの時、僕を叩こうとした大きな手は、今は優しく僕の頭を撫でている。