花色の月


桜ちゃんの手より大きくてごつい手のひらは、火傷の気配はなくて少しだけ安心した。


一応、この人もお客さまだし…



「ばあちゃんに、花乃起きたって言ってくるから。薬飲んどいて」


立ち上がった桜ちゃんは、すぐに部屋を出ていってしまった。


え…?この人と二人きり?



急に空気が張り詰めた気がして、顔を上げる事すら出来なくなった。

さっきは、無我夢中だったから手を掴むなんて出来たけれど、もう顔を見ることすら出来ないかも…




「…悪かった」



「えっ?あ…こちらこそ申し訳ありませんでした」



いくら何でも酷すぎるもてなしだったと思う。

おとなしく頭を更に下げると、小さなため息が聞こえた。



「…お前が、どうしようもなく嫌な奴だったらなぁ…」



思わず見上げた知花さまの瞳は、最初に会った時の冷たさは無かったけれど、代わりに切な気な寂しい色をしていた。

…なんで、そんな目をするの?

あなたには、桜ちゃんが居るのに……





「花乃、入るよ」


本当に、おばあ様に伝えにだけ行ったらしい桜ちゃんが帰ってくると、苦し気な瞳の色は何故だか一瞬増したような気がした。



「くーすーり!」



「はっ、はい!」



慌てて口に含んだ白い粉は、苦くて息が苦しくなる。

グラスの水で流し込んでも、何だか口の中には嫌な後味が残って、思わず顔をしかめてしまった。