花色の月

木々の向こうに柔らかな灯りが見えた。

戸の前に立って、今さらながら怖じ気づく自分が嫌になる。

やっと着いたのに、どうしても戸を叩く事が出来なかった。


「ミャア」


まるで、開けてって言ってるみたいな楓ちゃんの声に、カラリと戸が開いた。


「楓、遅かったです…ね………花乃…?」


「…こんばんは」


どうしよう、気の聞いた事が言えなくて、ごく普通の挨拶になっちゃった…


「来てくれたんですね」


柔らかく微笑む裏で、何を思っているか分からない。

それでも、手招いてくれるのを良いことに、おずおずと土間に足を踏み入れた。


「どうぞ」


那月さんがお茶を入れてくれたのは、前にあたしが選んだ桃色のぽってりした湯呑みで、ちゃんと置いててくれた事が嬉しくなる。


「ありがとうございます。
…あの、お花もありがとうございます」


「勝手に入ってすみませんでした。
どうしても、花乃に差し上げたくて」


「いいえ、嬉しかった…」


「その上、疲れているのにわざわざ足を運んで下さって……申し訳ない」


どうしても、その言葉が引っ掛かってしまった。

そっと目の前の囲炉裏の縁に湯呑みを置くと、そのまま立ち上がる。


「こんな時間に来てすみませんでした。
……帰ります」


「花乃…?」


「あたし、那月さんに会いたくなっちゃって……」


あぁ、どうしよう…
那月さんの前では元より強くない涙腺が、ますます脆くなる。