花色の月


「桜介を、行かせちゃって大丈夫なんやろか…」


「そうねぇ、花乃の負担も増えるでしょうけどね」


女将さんは、小さく微笑むと煎茶をすすった。

女将さんの部屋で、何故か向かい合ってお茶を飲むのが、いつの間にか日課に成りつつある。

花乃は一緒の時と、そうでない時があるけれど、今日は女将さんと二人だけの日。



「明美さんは、桜介と話しましたか?」


「一応話しはしました。せやけど…」


「そうねぇ、桜介はまだここに居続けるつもりだものね」


「居続けるて…なんや桜介が無理矢理居座っとるみたいですよ」


フフッと笑いながら、福田屋の大福に手を伸ばす女将さんは、大した役者や。

うちらはすっかり騙されて、女将さんは永野絵里に洗脳とるって信じとったもんなぁ。


「明美さん、ありがとうございます」


不意に女将さんが湯飲みを置いて、丁寧にうちに向かって頭を下げた。


「なっ!なんもしてないですよ?てか、顔上げはって下さいって!」


「花乃が、一番欲しかったものを私は与えてあげれませんでした。忙しいからとただひたすら仕事にかまけて、花乃をちゃんと見てあげれてなかったんですよ」


「欲しかったもん…?」


「えぇ、花乃は一緒に他愛もない事で笑える女友達が、ずっと欲しかったそうですよ」


「う~ん……うちは頑張り屋さんで可愛い花乃が、好きなだけなんやけどねぇ」


そんなあなたが来てくれて良かったと、ふんわりと微笑む女将さんは、やっぱりどことなく桜介や花乃を思わせる。

うちも、ここに来れて良かった。
まぁ、うちを呼んだ桜介は十夢にかまけて殆ど構ってくれへんけどな。