花色の月


桜介は、どうやら自分の意に反して、焚き付けてしまった事が気になるらしい。

ぼんやりと、武さん特製の賄いをつついている。


「桜介、つつくだけじゃあ減
んねぇぞ?」


「…あーっ!」


「っ!?ったく。いきなりでかい声出すんじゃねぇよ…」


俺の声なんて聞こえないみたいに、窓の外を見つめる桜介の目は限界まで見開かれている。

…おいおい、そんなに開けたら落っこんじゃねぇかぁ?


「何か居たのかぁ?」


今度はペタンと座り込んで、賄いの焼きそばを掻き込みだした。


「…花乃が……」


桜介は一旦箸を置くと、窓の外を指差しながら不満げに言った。


「あぁ……そうか」


なっちゃんの所に花乃ちゃんが向かったのが気に入らなくて、やけ食いって訳だな。

これは、やけ酒になだれ込みそうだな。

部屋に置いてある小さな冷蔵庫から、冷えた缶を二つ取り出した。

桜介の前に桃の酎ハイを置くと、自分の分の缶を開けた。

俺は勿論、甘い酎ハイなんかじゃなくてビールだけどな。



「乾杯でもするかぁ?」


「…祝う事なんて無いじゃん」


「なっちゃんと花乃ちゃんが、上手く行く事を願って」


嫌そうな顔をする桜介の缶に軽くぶつけると、溢れそうになった琥珀色の液体を喉に流し込んだ。


「武さんにおつまみ作って貰おっかな…」


「休ませてやれよぉ。つまみくらいなら俺が作ってやる」


仕方ねぇと思いながらも、桜介が花乃ちゃんの事を思って不機嫌になる事が気に触る俺は、人間がちっちぇんだろうな。

開けようと苦心する桜介の手から缶を取り上げると、サッと開けて一口だけ口に含んだ。

桜介は、相変わらず缶を開けるのが下手らしい。